済州チルモリ堂燃燈グッは、毎年旧暦2月1日~15日の期間中一日、済州市健入洞の本郷堂 (済州で村の神を祭った家)である、チルモリ堂で行われるグッ*(下参照)である。済州島の地理的特性は済州の人達に辛い生活を与え、海という巨大な生活基盤に対する畏敬心を持たせた。朝鮮朝に編纂された『東国興地勝覧』済州牧風俗条に「風俗は淫祀を尊び山森や池や高い丘や低い丘や木石に全て、神の祭祀を行う」という記録からもわかるように、済州は多くの信仰行為が行われた場所である。
何よりも海を通じて生活を営む済州漁民にとって「*霊登クッ」は特別な意味を持っている。霊登時期がもどってくると、 済州島の所々では霊登クッを行い、海の平和と大漁を願う。この数多くの霊登クッの中で健入洞チルモリ堂で開かれるクッが国家指定重要無形文化財第71号に指定された「済州チルモリ堂燃燈グッ」だ。「霊登クッ」という名前の為にチルモリ堂の神だけのクッと考えられるがそうではない。堂の主人で村を守護する堂神の為のクッであり、生活の場である海を治める竜王のためでもある。つまり霊登クッは多神位に祭る形態をしている。
霊登歓迎祭のクッの内容は初監祭、豊漁祭、席サッリムクッの順に略式で行う。2月14日に挙行される霊登送別祭は初監祭(空の神に告げクッ庁(クッを行なう時の総本部)神に頼んで座定させ参加者の名前を呼んであげる)、本鄕供え(本鄕神<夫婦神>を呼び寄せ、村の無事を祈りながら三献官が酒を供え、家族が焼紙を捧げる)、醜物公演(すべての神に酒を供え、餅を使って遊ぶナカシリノリをする)、竜王迎え(竜王と霊登神を出迎え海上安全と豊漁を祈る)、種ドゥリム(種で占いをし、海に出てわかめなどの種をまく播種儀礼)、度厄防ぎ(村の厄を防ごうと雄鶏を投げて家の運勢と海女のために占う)、老人ノリ(老人が藁の船を遠く海に浮かべて送る)、渡神(神々を送り返す)の順に進める。
一時期、済州では「セマウル運動」という近代化の波に乗ってグッを迷信とし逼迫することが行われていた。しかし、済州漁民は海の恐怖を克服するために神のために行なわざるを得ず、深い渓谷と海洞窟の中で人の目を避けながら息を殺して精誠を捧げていた。このように伝承だけでなく維持すらも大変だったグッ活動に、活路が開かれたのはチルモリ堂霊登クッが無形文化財に指定されたおかげでだった。
*クッはムダン(クッ儀式を執り行なう人)が神に供え物をして踊りと歌などを通して人間の吉凶禍福を調節してくれること祈願する儀式である。